私が藤一色を作る前に数百本観た芝居は
『負』に焦点が当たった作品がほとんどでした。
私が思う『負』とは、辛さ、悩み、ドロドロ、
暴力、死が核にあるものです。
学ぶことは多くとも、心が疲れてしまうんです。
そういう楽しみも確かにあります。
そこに優しさが充分活きてれば
『容疑者Xの献身』『人間風車』『芸人交換日記』
とかみたいに、毒が裏返って
芝居中で溜まった心の疲れすらも
吹き飛ばしてくれるものもあります。
『負』を知って『優しさ』を学ぶ作品もあります。
でも、藤一色は『優しさ』から『優しさ』に
広げていきたいのです。
優しさって一歩間違えれば好意の押し付け、
ありがた迷惑、大きなお世話とも言えます。
それでも、その優しさを受け取る側が
優しい気持ちになれたら、それは確かに
優しい行動の表れだと思うのです。
つまり、芝居で『優しい』を作るには、
絶対的にお客さんの受け取りが必要なわけで、
作り手達の自己満足の優しさだけでは
藤一色の芝居は伝わらないんだと思います。
それでも脚本の状態で
『優しい』を伝えたいのですが、
実はほんのちょびっとだけ葛藤があります。